自然樹形と人口樹形

松並木

自然樹形

自然に活着し、自然のままに成育した樹木は自然樹形になる。

その木の持つ性質のままに育つが、活着した場所の自然環境に影響されながら成育するので、日当たりの良いほうだけよく育ったり、強風で枝の一部が折れていたりする。

また、徒長枝などもそのまま育つので、一部が過密になって下枝が発育不全になっていたり、逆に一部がまばらな空間になっていたりする。

それだけに庭木としては、不向きな樹形となっている。なお、野山から勝手に採取することは、都道府県条例でほぼ禁止されているので、庭木の対象にはならない。

人口樹形

人口樹形とは、整枝や剪定をして人工的に形作った樹形の総称。

生垣などの目的に合わせて刈り込んだ樹形と、鳥や動物などの形に刈り込んで楽しむ樹形(トピアリー)、また、樹木の特性を生かして、自然風に刈り込んだ樹形などさまざまある。

単幹仕立て

太い幹が、一本立つ仕立て方。スギやヒノキなどの針葉樹は、主幹が一本で直立することが多いものだが、広葉樹では横枝が出てしまうことがよくある。

このときは、人工的に整幹してやる。樹高の二分の一以上まで一本立ちしていれば、単幹仕立てにはいる。

直幹仕立て

主としてスギ、ヒマラヤスギ、ヒバなどの高木種に使われる仕立て方で、主幹がまっすぐに伸びた樹形。安定性があり、すっきりとした感じに仕上がる。

曲幹仕立て

幹が、自然に曲がったように仕立てる。日本庭園によく使われる樹形で、クロマツ、アカマツ、ゴヨウマツ、ウメ、カエデなどによく見られる。

仕立て方は二通りあり、人工的に幹に割りを入れて曲げていく方法と、斜めに出る枝などをうまく利用して仕立てていく方法とがある。

玉作り(散らし玉)仕立て

枝ごとに、葉を玉状に丸く刈り込んで仕立てる方法で、幹に玉を散らしたように見せる。

葉が小さく密生する樹木が仕立てやすく、ツゲ、イヌツゲ、ウメ、ツバキ、イチイ、ヒバ類、などがよく仕立てられる。

段作り仕立て

基本的には玉作り仕立てと同じだが、玉の大きさや枝の配列を、意識的に規則正しく揃えて仕立てる。

幹から主枝を多数出し、芽だしもよく、強い剪定にも耐えられる樹木が適している。イチョウ、チャボヒバ、イヌツゲなどがよく仕立てられる。

貝づくり仕立て

基本的には玉作り、段作りと同じだが、玉の形を貝のように仕立てる方法で、前の二つとは別の仕立て方に分けられている。

多幹仕立て

根際はいったん切断し、三本以上の幹を出して仕立てる。三本立ち作り、五本立ち作りなどがある。全体に枝を少なめにして仕立てることが多いようだ。

双幹仕立て

幹の根元近くで、二本に別れる仕立て方。根元から二本立ちした幹の樹木をそのまま利用したり、ひこばえの出やすい樹木をうまく剪定して仕立てたりする。

一本の枝をやや細くして、二本の幹の間の枝は取り、全体が一本の木に見えるように整枝して仕立てる。

株立ち仕立て

低木類に多い仕立て方。地際から数多くの枝や幹が立つ種類に向いている。夏ツバキ、タギョウショウ、ハギ、レンギョウ、エゴなどで、植え込みや寄せ植えなどにも利用される。

流れ枝仕立て

主幹より主枝のほうが長い樹形で、片枝だけ長い片流れ枝仕立てもある。クロマツ、キャラボク、ウメ、イヌツゲなどを池の端に仕立て、水面上に張り出させ垂らす。

車仕立て

主幹を軸にして、車輪を縦にしたように仕立てる。一般に成長の遅い樹木に適している。サザンカ、イチイ、イヌツゲ、ツバキ、ヒバ類などに適しており、二~三メートルぐらいの高さに仕立てる。

ずん胴仕立て

太い幹の先を切り詰め、主枝も幹近くから切り戻す。幹から玉状の枝葉が直接でたように仕立てる。

門の付近などによく植えられているが、幹芯や大枝が折れたときなどにも利用できる。

出芽力の強い樹木が適しており、シイ、カシ、クスノキ、モチノキなどの常緑広葉樹で仕立てる。

枝切り、枝吹き仕立て

ずん胴仕立てや、散らし玉仕立てにしにくい樹木に利用する。主枝を短く切り戻し、切り口から小枝を数多く吹かせ、枝葉のかたよりをいくつか作って仕立てる。

広い枝張りを押さえるので、狭い場所でも育てられる。アセビ、サルスベリ、モチノキ、コブシ、モクレンなど。

樹木各部の働き

カエデ

樹木各部の働き

自分の庭を、全てプロの植木屋さんに任せるという人もいるだろうが、それでは庭木の楽しみを半分しか味わってないといえるだろう。

自分の好きな樹木を自分の好きなように育て、はじめて庭木の楽しさを満喫できるというもの。

庭木は生き物だから、順調に生育させるためには、それなりの時間と労力をかけてやらなければならない。

しかし、手間をかけてやればそれなりの成果があるから、そこがまた庭木の楽しみの一つといえる。

庭木が順調に育っていくためには、いろいろな要素がからみあっているが、まず樹木の生理的なことの基礎知識が必要だ。

根の働き

根は樹木本体を支え、水や養分を吸収し、蓄積している。樹木により根が地中深くに伸びていく深根性のものと、地表近くを伸びていく浅根性のものとがある。

また、幼木のときは深根性で、成育すると浅根性に変化するものもある。

幹の働き

幹は、表皮と木質部、髄でできており、根から養分や水分を通す導管と、葉で生産される物質を移動する師管(ふるい)とがある。

先端部分には成長点があり、生育期には細胞分裂が盛んになり、上へ伸びていく。また、表皮の内側には形成層があり、成長点が上に伸びるのに対して、横に細胞を増やす性質がある。

枝の働き

庭木を育てるとき、最も大切な作業は、枝の整枝と剪定。これらの作業は、枝の成長期と密接な関係がある。庭木の枝は、一般に春に一回延びるが、夏にも出て二回伸びるものもある。

一回目の枝は節間のつまった良い枝の場合が多いが、二回目の枝は、いわゆる徒長枝と呼ばれる間延びした枝なので、多くは切り取る。

枝の生長は、一般的に30日間ぐらい。その後の30日間のうちに、翌年の芽ができあがる。

葉の働き

活動している植物の葉は、一般的に葉緑素を含んでいるので緑色をしている。この葉緑素が光と炭酸ガスを吸収し、水分を分解して炭水化物を合成する。

このときにできた酸素が放出され、同時に水分も蒸散している。また、夜間、光エネルギーの吸収ができないときは、酸素を吸収して炭酸ガスを放出している。

このように樹木にとって光は、成育に大切な要素だが、光が多ければ多いほど良いとは限らない。樹木によっては、日陰のほうを好む性質の種類もあるのだ。

日当たりが良くないと成育しない種類を「陽樹」といい、日陰のほうがよい種類を「陰樹」という。また、本来は陽樹だが、日陰でも成育できる耐陰性の強い樹木もある。

葉の表面には気孔があり、開いたり閉じたりして、水分の蒸散などをうまくコントロールしている。

主な陽樹

アカマツ、ウメ、キョウチクトウ、クロマツ、コデマリ、コブシ、ザクロ、サルスベリ、サンザシ、ソメイヨシノ、タギョウショウ、ハギ、マンサク、モモ、ヤマザクラ、ユキヤナギ、レンギョウ

主な陰樹

アオキ、アジサイ、アセビ、イチイ、イヌマキ、ウメモドキ、クチナシ、サザンカ、ジンチョウゲ、ヒイラギ、マンリョウ、モチノキ、ヤツデ

庭木に適している樹木

松の木

土地に合う樹木が良い

日本列島は縦に細長く、年間平均気温の差が激しく降雨量にもかなり差がある。また、その地方特有の土質をもっていたりするので、その土地に合った樹木は、自然に限定されてくる。

白樺(シラカバ)が好きだからといって、九州に住む人が庭木として楽しもうと思ってもうまくいかないだろう、逆に北海道の人がフェニックスを庭木として周年育てようとしても、寒害で不可能だ。

また、湿気の多い土質を好む樹木もあるし、逆にソテツなどのように、水をきらう樹木もある。このような、特性をよく理解して、自分の家の庭に合う寿樹を選ぶ。

好みやデザインなどを優先させすぎると、苦労して育てても、その木が持つ良さ、美しさを発揮してくれないだろうし、花木や果樹ならよい花や果実をつけてくれない。

その土地に古くからある樹木を参考にして、成育しやすい木を選んで庭木にすることが大切だろう。

移植できる樹木が良い

苗木を購入して育てるなら、気候、土質が合えば、移植しても心配はない。しかし、成木を知人から譲られたときなどは、必ずしも移植可能とは限らないので注意。

旧家の庭にある枝ぶりのみごとな松の古木などは、そこにあるから価値があるので、他に移植できなければ、自分の求める庭木としては何の価値もないだろう。

無理に移植しようとしても、根が石の下まで張っているかも知れないし、移植後に活着させるための刈り込みで、形がくずれることも考えられる。

また、このような古木は、移植して活着させることが難しいので、枯れてしまうことが多々ある。どんな銘木でも、枯れ木では庭木にならないので、移植できることが庭木の条件の一つといえよう。

成長、整枝できる樹木が良い

活着後に成長の良いことも、庭木の条件の一つ。樹形を整えるために整枝をしたり、病害虫のついた時は、枝を切り落とさなくてはならない場合がある。

少し傷めるとすぐに枯れてしまうようでは困る。また、花木や果樹から成長の良いほうが、それだけ目的の花や果実を早くつける。

庭木の生長の良し悪しは、植え付け後の管理に大きく左右されるが、入手時の苗木や植木の選び方も大切だ。

まず、根の良否がポイントだが、一般的に鉢植え苗や、根巻きしている苗木は、根が見えないので、葉や枝から判断する。

葉の色艶が良く、葉と葉や枝と枝がつまった感じで、枝が太く、全体に生き生きしているものが良い苗といえる。